「でもね」
と、急に真面目な表情になった少女が飛影に真っ直ぐ向き直った。
煉獄焦の一発でもぶち込んでやろうかと思っていた飛影も、その変貌にぴたと思いとどまった。
真っ直ぐに、少女は蔵馬を見ていた。
「愛人になるだけじゃ、飛影さんに優しくなんてしてもらえないってこと、解かってます。蔵馬さんがいる限り、飛影さんの優しさは蔵馬さんのものだろうし……」
よく解かっているじゃないか、と飛影は唇の端を吊り上げた。
「わたしは�犧�の蔵馬さん�瓩砲覆蠅燭ぁ�そのためには蔵馬さん、貴方に�爐修貝瓩鯊爐い討發蕕Δ靴�ないんです」
少女の真摯な眼差しに動かされることなく、蔵馬はゆっくりと、首を横に振った。
「駄目だよ。�爐海貝瓩蓮帖牒爐海貝瓩世韻蓮�渡せない」
静かな声が答える。
けれど、強い拒絶だった。
「……解かりました」
ゆっくりと瞳を閉じた少女が、次の瞬間、その瞳に揺るぎない光を宿していた。
「では、証を見せて下さい。蔵馬さんが、飛影さんのものだっていう、証を。でなきゃわたし――……」
少女の妖気が高まる。
「力づくでも、奪いますから」
痛いほどの殺気が自分自身を取り巻くのを、蔵馬は感じ取っていた。
「だ、旦那ぁ……」
少女の妖気で吹き飛ばされそうになりながら、すがめが足元から飛影を呼んだ。
飛影はかたい表情をしたままじっと少女を見据えていたが、やがて、
「蔵馬」
呼ぶと同時に蔵馬の髪を掴み、自分の方に引き寄せた。
「飛影…何を」
「黙ってろ」
言いながら飛影は蔵馬のシャツのボタンを一つ、また一つと外していく。
「ひぃぃ〜〜!!!旦那ぁ〜〜!!こんな所でそれはまずいかと……!!」
顔を覆って叫ぶすがめと蔵馬も同じ心境であったが、飛影がそれを選んだ以上、仕方が無いとぎゅっと瞳を閉じる。
それに、そうすることで彼女が諦めてくれるというのなら――……
そう思ったとき、少女が短く声をあげた。
何事かと蔵馬が目を開くと……
「あっ………」
思わず顔に熱が上った。
シャツのはだけられた鎖骨付近に、いくつかの赤い花が散っていた。
昨夜飛影が残していったものだ。
「ひ、飛影さん、そ、そそそそそそそ、それって……」
驚きのあまり、すっかり妖気を元通りしぼませた少女が、顔を赤らめて口をぱくぱくさせている。
飛影はそんな少女ににやりと笑うと、勝ち誇ったように言い放った。
「これが証拠だ。文句は無いな」
「………ぅ」
蔵馬がちらりと視線をやると、少女は俯き、握り締めた拳を震わせていた。
やっぱり、ショックだったのかな……そう思った、次の瞬間。
「もう、さいっこーです!!!」
顔を上げた少女は満面の笑みであった。
「………は？」
「んも〜ほんっとに、ほんっとにイイモノ見せてもらいましたぁ―――!!!」
呆気にとられる一同の手を、飛影、蔵馬、そしてすがめの順で握り、
「じゃっ！わたしは仕事があるので、この辺で!!」
あっという間に見えなくなってしまった。
「何だったんだ、結局………」
「さあ………」
取り残された三人はただ、ボーゼンとするしかなかった。
「………そう言えば、」
「何だ？」
「彼女、何て名前なんですか？」
「…………」
「それでねっ！飛影さんたら�狢�馬、お前は俺が守る�瓩箸�何とか言っちゃって、もう凄いんですよ〜〜〜!!!こっちが感動しちゃいました！」
「ははは、そうか」
帰ってきてから止まることの無い少女の話を聞きながら、躯は脇に置いてあった酒に口をつけた。
少女はこのテンションでもう軽く三時間は喋り通しである。
その元気さに感心しつつ、躯は少女に相槌を打つ。
いささかフィクションが混じっていそうだが、まあ大方のことはあながち間違いではないだろう。
あの飛影は本当に、蔵馬には甘い。
「どうだ、オレの言ったとおりだっただろう？」
ようやく一通り喋り終えたのか、大きく息をつく少女に躯は酒を差し出しながら笑いかける。
「ええ、本当に。�牋�人�瓩辰童世辰燭箸燭鵝�蔵馬さんの眼が変わって……殺されるかもなんて思いましたもん」
渡された酒を乾いた喉に流し込みながら少女が言う。
「だが、面白かっただろう」
「ええ！頑張って演技した甲斐がありましたよ〜!!冷静な彼等じゃ、ちょっとやそっとのことじゃあまり�狄深足瓩鮓�せてくれそうにありませんもの。殺されるくらいのこと言わなきゃ」
あ〜、疲れた、と大きく伸びをし、少女は躯の腰掛けているベッドの上にごろりと寝転がった。
シーツに広がった栗色の髪を、躯の左手が優しい指使いで撫でる。
そう、何を隠そう、彼女に今回のことをふっかけたのは躯である。
少女があまりにも飛影とその恋人・蔵馬に対して興味を抱くものだから、ならいっそ、二人を脅かしてみてはどうだと言ったのだ。
例えば、そう、例えば�犲�分は飛影の愛人だ�瓩噺世辰討澆襦帖弔箸�。
しかしそんな嘘は飛影が黙っていない。だから仕方なく、ああいう話を作り上げたのである。
「まあ、あながち間違いでもないんですけどね……」
シーツに顔を埋めながら、少女はぽつりと呟いた。
飛影の優しさに憧れていたのは本当。
けれど�狢�馬に優しい飛影�瓩�いいわけで、別に蔵馬から奪ってやりたいとか、そういうのではない。
「あ〜、でも、楽しかったぁ、癖になりそうですよ、ホントに……」
「だろう？オレももう、はまってしまって抜け出せないのさ」
躯の言葉にあがったくすくすという笑い声が次第に消え、変わりに小さな寝息が聞こえてくる。
「やれやれ、大変だな、あいつらも」
少女に布団をかけてやりながら、躯は苦笑する。
しかし、まあ、今回のことはあいつらにとっても良かったのではないか？
互いの絆とやらも確かめ合えただろうよ。
根拠の無い考えが当たっているか否かは、誰にも解からなかった。
あとがき
オリジナルキャラ爆発です…;;こんなに長くなる予定じゃなかったのに;;
2004〜2006?
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