17. 君は誰
いつもなら、彼の背中には使い魔の「すがめ(命名:蔵馬、「片目」の意)」が乗っていた。
しかし今日は何故か、乗っていた…というより纏わりついていたのは、見覚えの無い、女……だった。
「誰、その娘(コ)」
無意識に刺々しい声が出たのは、気付かれずに済んだだろうか。
「初めまして」
えへぇ、と子どものようにはにかんでで笑ったそのコは、大きな栗色の瞳に、肩で切りそろえられた同じ色の髪、薔薇色のふっくらした唇、服の裾から覗く肌はとても滑らかそうな、いわゆる、美少女だったわけで。
それでいて強い妖気をひしひしと身に感じていて……美しい上に力もある、飛影が好くタイプだ。
自然とそっちの方向に回ってしまった自分の思考に、蔵馬は唇を噛んだ。
「ニィさぁん……」
足元で半泣きになっているすがめのことなど全く眼中に入れることなく、蔵馬はもう一度同じ質問をした。
「誰、その娘」
今度は少しまともな声が出た。
それでもやっぱりいつになく不機嫌を露にしている蔵馬に、飛影はため息をつきつつも答える。
「………仕事の同僚だ」
「飛影さんの愛人ですv」
「なっっっ……!!!」
予想していた数ある言葉のうち、最も聞きたくなかった一つを言われ、蔵馬の表情が凍りつく。
が、その瞬間、飛影から灼熱の炎が吹き上がり、少女が慌てて飛びのいた。
「ひゃあっ!!な、何するんですか！危ないなぁ〜もぉ〜!!」
たまらず悲鳴を上げた少女に、飛影は少しも悪びれた様子も無い。むしろふんぞり返る勢いで、フンと鼻を鳴らした。
「貴様がろくでもない嘘をつくからだ」
「だからって燃やすこと無いじゃないですか!?」
「黙れ」
にべも無い飛影の物言いに、少女は唇を尖らせる。
「………本当に嘘なんだろうな」
言う蔵馬の瞳に金色の光が射した気がして、飛影は慌てて頷く。
「当たり前だ。貴様は俺が信用できんのか」
飛影はそう言い、真摯に蔵馬の眼を見つめた。
「きゃあ〜vv素敵vvv�牴兇�信用できんのか�瓩世辰董繊�v」
頬を染めた少女の歓声は、飛影にとっては冷やかしでしかない。
「……黙れっ貴様は!!!」
「あ〜らまぁっ」
飛影の怒りの一太刀をくるりと跳んで難なくかわし、少女はにっこりと屈託の無い笑みを浮かべた。
「……仲がよろしいことだな」
素直な感想だった。いつもとは少し違う飛影がそこにいたから。
少女の笑顔が眩しい。
自分の目から見ても本当に可愛いコだ。きっと飛影にもそう映っている。
蔵馬の胸に、暗い陰がさした。
時折、こんな時があるのだ、�猗�影は一体、何故自分と一緒にいるのだろう�瓠△修鵑糞震笋班坩造�押し寄せてくることが。
彼からそういった、世間一般で言われている�犢霰鬮瓩瓩い燭海箸楼貪戮盡世錣譴燭海箸�無い。
無いけれど、いつの間にか傍にいるのが当たり前になっていた。
『仲間』では到底無いであろう関係を結んだ時だって、至極自然に、それこそまるで当然のごとく、どちらからともなく、手を伸ばしあったのだ。
約束なんてしていないのに、自分の頭の中には飛影のいる未来が描かれていた。
だから彼が、そして自分が、一体何故、互いと共にいるのか……それがふと、何かの拍子に不思議になリ、そして不安の渦へと変わっていく。
一度その流れに捕まれば逃げられず、中心まで引きずり込まれて闇の底へと放り出され、もがいてももがいても、自分の力ではそこから出ることが出来なくなってしまうのだ。
ただ一つ解かっていることは、いずれにせよ自分は飛影を心から必要としているということだ。だからこんなにも、彼を失うことを恐れている。彼に執着している。
でも、飛影は――……解からないわけで。
想われていないと思っているわけではない。その想いが果たして彼にとって特別なものなのか、それが不安なのだ。
いつか本当に�狷段稔瓩覆發里�現れて、彼が自分から離れていくのではないか、と――……
「―――……い、おい、蔵馬！」
自分を呼ぶ声と肩にかかる強い力を感じ、蔵馬ははっと我にかえった。
「どうした、何をぼーっとしている」
口調は荒いが、心配する眼が自分に向けられていた。
「いや、何でも……」
慌てて視線を逸らすが、答える声が掠れてしまう。
「ふん……また余計なことを考えていたんだろう。いらんことにまで頭を使いすぎる、貴様の悪い癖だ」
図星をつかれ、蔵馬はぐっと詰まった。
どうしてそんなにも、お前はオレのことを見通すんだ？
その額の眼には他人の心を読む力なんて無いはずだろ？
……自分をよく見てくれている証拠のような気がして、少しだけ幸せな気分になる。
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