まさか、と思った。


「く……ら――……」


掠れた、声にならぬ呼びかけに、目の前の彼はふわりと微笑んだ。


『……やあ』


以前と何ら変わらぬ、あたたかな…けれどどこか油断ならぬ笑顔。

それに引き寄せられるように手を伸ばした。
しかし、頬のぬくもりを求めた指先はすり抜けて、空を掴むだけ。


――やはり、幻。


自嘲めいた笑みが浮かぶ。

だが。


それでもいいと思う、自分がいた。


「何故、死んだ?」


震える声で、しかし精一杯、普段通りに振舞う。


「俺の知らない場所で勝手にくたばりやがって……」

『申し訳ありません。ちょっと、しくじりまして』


ひとつ肩をすくめて苦笑する。

仕草も、声も、表情も――自分の記憶の中の蔵馬と、寸分違いなかった。


『おかげで、貴方を随分と寂しがらせてしまったみたいで……本当にすみません』
「……………俺は、寂しがってなどいない」


顔を背ける。
途端、蔵馬の笑みがにやりと意地の悪いものになる。


『おや、そうなんですか?てっきりオレは貴方が寂しがってるものだと……』
「な――……」


そんなわけがあるか、と続くはずだった言葉は、蔵馬によって遮られた。


『オレを呼ぶ、貴方の声が聞こえた』

『だからオレは、ここに来た。貴方のことが心残りでね――成仏、しそこねちゃいましたよ』


優しく耳を撫でる声に、思わず目を見開く。


『貴方がオレに呪縛をかけた。――……責任、とって下さいね』


深い、闇色の瞳が揺らぐ。

瞬間、そのかたちのない身体を抱き締めていた。

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