――どこにいる。


邪眼を使い、まず人間界から。
次いで魔界を一層一層見渡して、霊界へ。


蔵馬


知らず唇がそう形作っていた。
けれど答える声はなく、ただ、虚しく風に溶け込んで流れていくだけ。


くらま


似た妖気を感じ取り、期待に跳ね上がった胸を失望が叩き落とす。
それを何度、繰り返しただろう。
全ての界を渡り、それでも見つからなくても、まだだと、見落としているだけだと胸の奥で叫ぶ。
絶望という、拭いきれない影を纏いつかせたまま。

蔵馬を捜しはじめて、数日。
一睡もしていない、妖力を酷使し衰弱しきった頭に忘れかけていた日々が蘇る。

自分を捨てた生まれ故郷
双子の妹
母の形見の氷泪石

それらを求めて彷徨った年月。

氷泪石を不覚にも失ったとき、もう二度と大切なものはなくすまいと心に決めた。
失いたくないものは絶対に手放すまい。
それでもこの手をはなれたときは、必ず取り戻すと。


――失いたく、ない?

ああ、そうか――だから、俺は――……


――……解かっていた。
幽助の言うとおり、蔵馬がもう、この世にはいないことくらい。
すべて、知っていた。

頭ではそう理解していても、感情が拒んだ。

嘘だと思うなら、幽助が残した紙にあった場所に行けば良かったのだ。
行ってそこを掘り返して、何も埋まっていない地中を指して笑えば良かったのだ。

けれど、できなかった。

知っていたから。
でも、認めたくなかったから。

だが、そんな己の騙しあいももう終わりだ。
失いたくないと……それゆえに認めたくなかったのだと知ってしまった。


クラマ


何もかもが空虚となり、飛影はがくりと膝をついた。

失いたくなかった。
けれどできなかった。

気づけなかった。
自分の中に、彼に対するこんな想いがあったなんて。
こんなにもあっけなく、別れというものが訪れるなんて。

闇の中、一際あたたかく見えるその明かりのともった窓を開く。
いらっしゃい、そう微笑む顔は、まるで突然の来訪を見越していたかのように楽しげで。
何か飲みますか?今日は少し冷えるから、温かいものがいいね…

扉の向こうに消えていく背中を追って浮上した意識に、自分は眠っていたのだと知った。
冷たい土に顔を伏せ、すべては夢であればいいのにと、思う。

蔵馬が死んだことも。
蔵馬に出会ったことも。
自分が、生まれてきたことさえ。


『ヒエイ』


聞き慣れた響きが耳に届いたような気がして、飛影は再び閉じかけていた瞼を僅かに開く。


『ひえい』


幻聴だ、そう思った。
これもまだ夢の一部なのだと。


『飛影』


しかしだんだんとはっきりしてくるそれに、飛影はたまらぬ思いで跳ね起きる。

夢であれ、もう一度会いたいと思った。
そしてできることなら――


『こんなところで眠っていたら、風邪をひくよ、飛影』


見知った、穏やかな笑みがそこにあった。


――ソシテデキルコトナラ、永遠ニ共ニイタイト、ソウ、願ッタ――

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