『オレは、二度も同じ罪を犯した』


抑揚の無い声で呟く。


『死から逃げ、浅ましくも生きることを望んだ。
その結果、他人を傷つけ、危険に晒し……』


一度目は、南野秀一の周りの人々を。


『もう、懲りたはずだったのに』


二度目は、誰よりも愛した者を。


『もう二度と、同じ過ちは繰り返さないと誓ったのに――……』


己のあさはかさを呪いたかった。
解かっていたのだ。
飛影の傍にいれば、このようなことになってしまうのではないかと。
けれど、飛影と共にいたいという思いが囁いた。

少しだけ、少しの間だけなら、きっと大丈夫だ……と――

予兆が出始めれば、彼のもとを離れよう。そう思っていた。
眠っている間にでも――自分との時間はすべて夢の中の出来事であったと思ってくれれば……

だが、予想していたよりも遥かに、飛影の中の自分への想いは強かった。

自分がいなくなることを極端に恐れる彼に、蔵馬は不安を覚えた。
本当に、夢として片付けられるのだろうか?
もしも自分がまた彼の前からいなくなったとき、彼は――どうなるのだろうか……

自惚れだと思いたかった。
しかし彼の瞳が、それは真実だと語っていた。

そしてもう一つ予想外だったのは、飛影の妖気がほとんど空になっていたことだ。
そのために、一週間ほどで早くも予兆が現れた。

一刻も早く、飛影の傍を離れなければ…頭ではそう思っているのに、実行に移すことが出来ない。
引き止めるのは、飛影の瞳。
そして、自分自身の飛影と共にいたいという想いだった。


『オレは、やはりあのまま素直に案内人に連れられて霊界へ逝くべきでした。
 本当に――……自分の愚かさを恨む』

「そんな……そんなことねえよ!」


幽助の叫ぶような言葉に、三人は驚きの目を向ける。
彼は、今にも泣きそうな表情をしていた。


「誰だって、死にたくねえって……大事な奴と一緒にいたいって思うぜ!
オレだって……蔵馬、お前がオレのせいで攻撃もろにくらって……死んじまったとき、
オレお前のこと生き返らせてえって思った。
オレが油断したせいだったし、そのことも凄く、きつかったけど――
 でも何より、お前が大事な仲間だから、お前のこと生き返らせたいと思った。」


震える声で語る幽助に、蔵馬は自分が死んだ直後の彼の姿を思い出した。
自分の名を、泣きながら呼ぶ幽助。
霊体になった自分に、何度も何度も謝っていた。
いいんだ、大切な仲間のために死ねてオレは本望だよ、だから顔を上げてくれ――
そう言うと、彼はありがとうと、涙に濡れた顔で笑い、そしてまた泣いていた。

「だからコエンマに蔵馬のこと、どうにかならねえのかって頼んだけど――
肉体があの状態ではもう生き返らせることは無理だって言われて、それでも、オレは――」


堪えきれず一粒だけ流れ落ちた雫を拭って、幽助はきっと蔵馬を見つめる。


「そう思っちまうのは仕方ねえんだよ!!それだけマジで大事なもんなんだから!
なくしたくねえって……そう思ってあたりまえだ……!!」


ありがとう。


蔵馬はそっと眼を伏せた。

この少年の純粋な心は、出会った頃から何一つ変わっていない。
自分達の陰を取り払い、知りえなかった光の下に導いてくれる。

今もまた、お前のおかげで救われた――


『お前に会えて良かったよ』


微笑み、蔵馬は飛影に向き直る。


『飛影……貴方は、まだオレを必要としてくれますか?』


無言で見上げる瞳が、言うまでも無いと語っていた。
それに蔵馬は小さく吐息をつき、コエンマを振り返る。


『コエンマ、少しだけ――時間を下さい。
飛影と二人で、話がしたいんです』

「……良かろう」


頷き、幽助を促してコエンマは森の奥に消えた。


『飛影――……』


それを見送り、蔵馬は飛影のそばにひざまずく。


『道を、決めて下さい――……』

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