案内人に連れられ霊界に向かう途中、誰かに呼ばれたような気がして蔵馬は振り向いた。
もちろんそこには、誰もいない。
気のせいか――……そう思い、また歩き出そうとした途端、もう一度呼ばれた。
今度ははっきりと解かった。
――飛影。
飛影が自分を呼んでいる。
そう思った瞬間、案内人を振り払い、声のした方へ駆け出していた。
蔵馬が見つけた飛影は、何かを必死に捜し求めているかのようだった。
邪眼を開いてあたりを見回し、何かを見つけたのか突然走り出す。
目的のものを確認するが間違いだったようで、また邪眼を開く。それを繰り返す。
見たこともない、酷く哀しげな表情をして。
何故そんな顔をしているのか――……理由が解からず、蔵馬は彼を呆然と見つめていた。
その時だった。
ク ラ マ
無いはずの身体が、歓喜に震えた。
ああ、飛影は自分を捜しているんだ。
死んだ自分を、それでも、求めて。
必要としているんだ。
「ごめん、飛影――……」
彼が、幸せな一生を送ることを願った。
「ごめん………」
自分は死んでしまったけれど、彼は生きて、幸せになって欲しいと。
「………ヒエイ――」
でも、もしも自分無しに、彼の幸せがなかったとしたら?
「………ひえい……」
例えそれが今だけであっても、自分がいることが、彼の幸せだったら?
「――……飛影…」
今だけ――彼が、自分を必要としなくなるまで…傍にいても許されるだろうか?
――ごめん、飛影――
たとえ彼を、そして自分を、苦しめることになっても。
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