01. はじめまして

どうも皆々様、はじめまして。あっしは飛影の旦那におつかえして三ヶ月の、新米使い魔でございやす。
え?はじめましてじゃない?……あっと、これは失礼しやした。しかしながら、あっしから皆々様にご挨拶させて頂くのは今回が初めて故、やはり‘はじめまして’なのでございやす。
本日は、あっしが初めてニィさん……あ、蔵馬ニィさんのことでございやす……にお会いした時の話をさせて頂くことになりやした。下らない語りでございやすが、どうぞ最後まで、お付き合い下さい―――

「へえ、使い魔か」
あっしの首根っこを細い指で掴み上げて、長い髪の綺麗な顔をなさった方が言いやした。
「霊界に捕まった時にみんな解放したんじゃありませんでした?」
「そいつは前のやつらじゃない」
旦那はここに着いた途端、真っ直ぐベッドに向かって、ごろんと横になってしまわれた。旦那ぁ、ここはこのお方の部屋じゃないんですかい?大体ここは人間界だし……人間界なのにこのお方は霊気じゃなくて妖気だし……状況が掴めず困惑しているあっしをおいて、旦那とそのお方は親しそうに話を続けやす。
「どうしてまた使い魔を?」
あっしの一つ目を覗き込んで、そのお方は優しく微笑まれやした。途端にあっしはぼん!と音がするほど真っ赤になってしまいやす。あわわわ、なんて綺麗に笑われるんでやしょう!何だか恥ずかしくて視線を合わせられずおどおどしておりやしたら、今度は旦那にひょいっと掴み上げられてしまいやした。………あれ、旦那、何か怒っていらっしゃいやす?
「時雨がオレによこしたんだ」
旦那はそう言って、あっしをさっきまでご自分がいらしたところにぽいっと放り投げやした。ベッドの上でやすからそんなに痛くはありやせんでしたが……旦那、酷いでやす!
ぶつけた頭をさすりながら旦那の方を見ると、旦那は床に座ってらっしゃるそのお方の傍にご自分も腰をおろされやした。………旦那、いつもなら絶対にご自分から他人の傍になんて行かないんじゃあ……
あっしの疑問をよそに、お二人の会話は弾んでいきやす。
「俺の邪眼の対(つい)だそうだ」
「邪眼の対?」
「ああ。『邪眼師』種族の始まりであるとされている妖怪がいる」
「特殊な眼を持つ低級妖怪の種族ことか」
「そうだ。時雨はその低級妖怪から眼を摘出し、他の妖怪に移植していた。その種族は二つ目。俺に移植されたこの邪眼にも、もちろん対がある」
お二人が同時にあっしの方を向きなさった。
「俺の後に邪眼の移植手術を受ける奴がいなかったらしい」
「なるほど」
頷いて、そのお方はあっしの方にいらっしゃった。
「しかし、もう一つ眼があったようには見えないな」
あわわ、そんなに傍から見つめないで下さいやせ……
「低級妖怪は優れた再生能力を持っている。片目になればそれでも生きていけるように目の位置は顔の中央に動く」
身体が浮かび上がったと思ったら、またしても旦那に掴み上げられていやした。鋭い紅い瞳があっしを正面から睨みつけやす。
「………おい」
「………ハイ」
………旦那、何だか声が不機嫌じゃありやせんか?
「外に出ていろ。何なら先に帰れ」
「へッ?」
『え』なのか『へ』なのか解からないような声を発したあっしの身体を、旦那は外につまみ出してぴしゃりと窓を閉めてしまわれた。おまけにカーテンまで……旦那、酷い!!狭い窓枠の上に何とか掴まっていたあっしは、落ちまいと必死になってもがきやした。そんなあっしの耳に、部屋の中のお二人の会話が聞こえてきやす。

――おや、彼話せたんだね。
――当たり前だ。そうしないと使い魔として機能せん。
――結構かわいいじゃないか。従順そうだし、役に立ってくれそうだ。
――……おい、もういいだろう。
――ひょっとして、何か妬いてます?
――………バカが。
――今度から来るときは、彼をつかって連絡の一つでも下さいね。
――もういい、黙れ。

………何なんでやしょう…これは一体何なんでやしょう!?ぐるぐると疑問が渦巻くあっしの脳内。………ええ?まさか、まさかとは思いやすが旦那、今まで躯のネェさんや他のべっぴんな女性に全く興味が無さそうだったのはひょっとして、色恋沙汰には興味が無かったんじゃなくてひょっとして―――窓枠にぶらさがったまま、固まってしまったあっしの耳に、とどめとばかりに届いたのは………

――………んっ…ぁ――

その瞬間、あっしの手はついに力を失ったのでありやした。
ああ、なあんだ……旦那ってば、あんなに美人な恋人がいたんでやすね……そりゃああれだけ綺麗なひとなら、他の女なんて目に入りやせんよね……なあんだ……
痛む身体を引きずって、あっしはまだよく解からない旦那のことをまた一つ、知ることができた喜びを噛み締めながら、魔界への帰り道を辿って行ったのでありやした。その後百足に帰り着き、躯ネェさんにあの方はあの伝説の妖狐蔵馬だということと、男だということを知らされて、腰が抜けるほど驚いたのはまた別の話でございやす……

では、本日はあっしの下らないにお付き合い下さり、ありがとうございやした。
またいつか、お会いできる日を楽しみにしていやす……

あとがき
オリジナルの使い魔くん初主役。第三者の目から飛蔵を書くのはやりやすいです。

2005?


02.秘めごと

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