(まだ、ただの仲間同士)


近頃、どうにも目覚めが良くない。
というのも、見る夢が奇妙なのだ。不愉快な過去の記憶という名の夢は以前から頻繁に見ているが、それとは別に、ここしばらく繰り返す夢がある。
その夢に現れる時間も場所も、一度ごとに異なっていた。しかし同じ相手がいつもそこには存在し、そして自分は同じ行動を取る。最後に必ず。
目を開けたときには疲れたように四肢が重く、確かに今身を起こし眠りから覚めたはずが、しばし夢と現の境も霞んで判断がつかない。休むつもりで眠っているのにそうした気にならず、酷く面倒で、うんざりしている。
だるい頭を壁に凭せ掛けながら飛影がそう漏らすのを黙って聞いていた部屋の主は、ふむ、と唸って机の上に置いていたその腕を胸の前で組む。
「夢というのは、記憶の断片だということもあるが、いろんな意味を持つこともある。夢の内容を聞かないことには何とも言えないが……」
蔵馬のその言葉が、暗にどんな夢を見たのかを問うているのだと、飛影には解かっていた。内容が内容なだけに、何気なく語ることを避けて話した。それゆえ一瞬口籠るが、尋ねられたのであれば答えようと開き直る。むしろ、これを言えば蔵馬がどんな反応をするのか見てみたくもなったので、笑みさえ浮かべて飛影は答えた。
「貴様を刀で刺す夢だ」
案の上、夢の内容を聞いた蔵馬は虚を突かれた顔を見せた。してやった、と飛影は一層唇の端を上げたが、
「以前実際にそんなこともありませんでしたっけ?」
空っとぼけて小首を傾げた蔵馬がそう言った次には、眉間に深い皺を刻んでいた。
「もう気にする必要はないですよ」
冗談めかして肩をすくめる蔵馬は、夢の原因は飛影があの出来事について何らかのわだかまりを抱いているところにあると判断したらしい。しかし飛影は、そんなものじゃない、と舌打つ。飛影自身の中で、あの件に関してはもう決着がついている。それに、何故もう二年以上が経とうとしている今さらなのか。あの夢は蔵馬の言うような、単純な過去の記憶の再生とは考えにくいのだ。
「初めは何でもない夢だ。ただお前が喋っている。今のようにな。それを聞いているうちに、気づいたら俺は刀を握っていて、刃の先がお前の腹に埋まっている」
最初は至って普通の夢、それが突然、何の前触れもなく形を歪めはじめ、飛影が蔵馬を刺すという結末へと向かう。夢の中であるため、当然あの握りしめた刀が肉を貫いた時の感触はない。しかし確かに、飛影の刀は蔵馬に深々と突き刺さり、そして――
「そんな夢を見るせいで目覚めが悪いんですか?」
不意に、そう不思議そうに首を傾げながら問いを投げてきた蔵馬に、飛影は睨みを向けた。
「どういう意味だ」
「いえ、別に」
何かをごまかすように視線を泳がせた後、じゃあ、と蔵馬は続けた。
「もう同じ夢を見ないようにするためには、何故そんな夢を見るのか、その原因を突き止める必要があるな」
「そんなことが解かるのか」
「人間界で一般的に馴染んでいる夢占いというものがある。占いといえど、心理学的研究に基づいて夢の内容から見る者の深層心理を読みとるものだから、案外的を射ているかもしれない。参考程度にもならない可能性もあるが、一先ずはそれを調べておきますよ」
それまではこれでも使ってみて下さい、と手渡された安眠効果のあるという香を持って、その日は蔵馬の家を出た飛影だった。


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