「おや、まあ」
突然開いた窓に、オレは思わずそんな、少々間の抜けた声を上げていた。
「来てくださいと言いましたっけ?」
「いつも言われんでも来るだろうが」
はあっと白い息を吐き出し、部屋に降り立った飛影は不機嫌そうに答える。
「それとも、何か具合が悪いのか」
吹き込む風が冷たい。
窓を閉めながら、オレはいいえ、とかぶりを振り、
「ただ、半ば期待していなかっただけに驚きまして」
すると飛影は少し目を丸くする。
「何のことだ」
ああ、やっぱりわかっていなかったのか。
「今日は12月24日……クリスマスイヴ、ですよ」
「……………」
途端、決まり悪げな彼の表情。
祭ごとが苦手な彼の、至極自然な反応だ。
だから今日、誘いの言葉は告げなかったし、自分も特にこだわる方ではないので気にもしていなかったのだが。
「ふふ」
思わず盛れた笑いに、一体何だと飛影の鋭い視線が向く。
「いえ、素敵な贈り物がやってきたなと」
「………くだらん」
「そう冷たいことを言わないで。……嬉しいんだ、貴方が来てくれて」
さっきまで何ともなかったというのに、今ではこんなに胸を弾ませている。
「どうやらオレは、貴方に会いたかったみたいだ」
密やかな告白とともに彼の胸に顔を寄せれば、やさしいてのひらが背に回される。
その感覚がくすぐったくてまた笑みをこぼした。
このぬくもりが欲しかったんだ。
クリスマスだとか、特別な日だからとかではなくて。
「……一月ぶりか」
飛影の呟きに、ああそういえばそんなに会っていなかったのかと思う。
恋しくなるわけだ、道理で。
背にあった飛影の手が頬に伸びて、オレを誘う。
「………ん」
冷たい指先と熱い唇に少しのめまいを覚えながら、それでもオレはもう少し、贅沢をしてみたくなる。
「待って、飛影」
襟にかかった手を抑えて覗きこむ。
「まだ日が落ちたばかりなんだから、お楽しみはもう少しとっておきましょう」
「……どういうことだ?」
みるみる飛影の眉根が寄る。
我が侭は承知だけれど、このツケは後でたっぷり払うから――……なんて、一人胸の内で誓いをたてて、オレは切り出した。
「折角の聖夜だ。部屋にばかり引き籠ってないで、たまにはデートなんてしてみるのも良いんじゃないですか?」
「…おい」
「街に出ましょう。イルミネーションが綺麗だから」
にっこり微笑んでみせれば、渋い顔はそのままに再び窓を開ける。
その背中がたまらなく、愛しい。


Merry Christmas!!

2006.12


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