「ああ……もうクリスマスか……」
街を彩る鮮やかなイルミネーションを見上げ、蔵馬ははぁっと白い息を吐き出した。それが凍えた夜気に溶けるように散るのを見届けてから、蔵馬は店のショーウインドウの向こうに見える機械仕掛けの可愛らしい壁掛け時計を見やる。
12月23日午後10時過ぎ。最近ずっと残業続きで、“もうすぐクリスマス”だという思いはあっても、まさかそこまで間近に迫っているとは気づきもしなかった。
間もなくやってくる聖夜に、街中がどこか明るく見えた。
カラン、とドアベルの音がして、店の中から二十歳前後の青年が大きなくまのぬいぐるみを抱えて出てきた。周りの目を少々気にしつつもその顔はどこか嬉しそうで、きっと誰か愛する人に捧げるのだろうな、そう思うと自然と笑みが零れる。
「いいなぁ……」
思わずそんな呟きが洩れていた。
「お前はあんなのが欲しいのか?」
いつの間にか脇に立っていた飛影が、青年の抱えたぬいぐるみを示して言った。先程から視線を感じていたのでさして驚く事はしない。
「違いますよ。オレが言ったのは、あの人が幸せそうなのが良いなってことです」
蔵馬の返答に飛影はふぅん、と鼻を鳴らし、
「貴様は幸せじゃないのか?」
予想外の問いに、蔵馬は一瞬目を瞬かせたが、すぐにくすりと笑って言った。
「さあ、そういうことって、自分では解からないものだからな」
今度は飛影の方がぽかんとする。その反応の可愛さに思わず零れそうになった笑みを噛み殺し、でも――そう言って手を差し出す。
「貴方が一緒にクリスマスを過ごしてくれるなら、幸せなんじゃないんですか」
不機嫌そうな顔をしながらも、応える手のあたたかさは何物にもかえがたい聖夜のおくりものだった。

END

聖夜前夜

2003?〜2006


携帯...←戻
PC...ブラウザを閉じてお戻り下さい

inserted by FC2 system