25. 棘(とげ)


『気をつけて。綺麗な花には棘があるものなんだ。美しいゆえに寄ってくる、様々なものたちから身を守るためにね――』


再会して間もなくの頃、机の上に置かれていた一輪の薔薇に何気なく手を伸ばした俺に、あいつが言ったその言葉が離れない。
その、血のように真っ赤な華と、あいつはどこか似ているように思った。


甘く、溶けるように香る匂いと。
一つあるだけで目をひく、その美しさと。
そして、その奥に隠されている、鋭い、棘。


その甘美な誘惑に騙されて、うっかりと近づけば、その棘の餌食となる。


ずたずたに引き裂かれて、例え血を流し、その赤き華をより赫く染めることになっても、気高き華を求め、触れようとなお手を伸ばす。


逃げられなくなる。


俺のように。



あいつが振り向いて笑う。


ちくり

また一つ、小さな棘がこの胸を刺す。


それでも俺は逃げられない。


例え切り裂かれ、この身を滅ぼすことになっても――




その花弁に、今宵も甘く口付けを落とそう。


その香りに負けないくらいに、甘い口付けを。



2004〜2006?


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