15. シンドローム
『少々髪がいたんでいる。トリートメントはしているか？ 手入れは十分にした方がいい。人間はいたみやすいからな』
『クールな反面かなり好戦的だ。やはり私は５人の中でお前が一番好きだよ』
『好きなものを殺すとき…�犲�分は一体なんのために生まれてきたのか�瓩鮃佑┐觧�の様に気持ちが沈む』
『だがそれがなんともいえず快感だ……』
水滴の滴る髪を払いのけ、タオルで首筋を拭う。しかしあの指の感覚が離れることはなく、蔵馬は不快に眉を寄せた。
冷たく細い、あの感触。
奴――鴉がその気であったなら、間違いなく自分は殺されていた。あの、奴の特殊な爆発の能力で、自分の首は落ちていた。――造作も無く。
「くそっ」
柄にもなく、焦りが口に出た。ぎしりと大きな音を立てて、ベッドに身を投げるように腰を下ろす。何をそんなに不安がっているのか――蔵馬は目の前のテーブルに置いてあるものに眼を向ける。鈴木からもらった�狒粟い亮足瓠帖弔海譴�あれば、楽に奴には勝てるはず。
なのに、何故？
何をそんなに不安がっている？
「！」
突然部屋の入り口に現れた気配に、はっと顔を上げる。影から姿を現したのは、見慣れた赤い瞳。
「――飛影」
いつもながらどこか不機嫌そうに見えるその眼差しに、蔵馬はまた不安を覚えて顔をしかめた。近づいてくる飛影と眼が合わせられない。
「酷い面しやがって」
言われても、いつものポーカーフェイスを装った顔を上げることは出来なかった。
何が怖い？
一体何故？
自問自答を繰り返す蔵馬の前から、唐突に飛影の気配が消える。それに驚き顔を上げた瞬間――
「――……!!」
首筋にあてがわれた触感にぞくりと悪寒が走った。
「どうした」
耳元を嘲笑うような飛影の声が掠める。首に絡み付いた指がそのまま、まだ濡れて重い髪を梳く。
「怖いか、蔵馬」
「――……キサマッ……!!」
振り向きざまに背後に繰り出した一撃は、ヒュン、と鋭い音を立てて空を切った。
「ふん」
飛影がまたいつの間にか元の位置に立って、冷笑を浮かべている。
「遅いな――……隙がありすぎる」
「……飛影」
腹の底から沸き起こってくる怒りを瞳に宿らせ、蔵馬は飛影を見据える。
「冷やかしに来たのなら帰ってくれ。今はそんなものに付き合っている暇は無い」
蔵馬のその言葉に、くっと飛影が笑う。
「何を恐れていやがる、貴様」
自分の心の内を見透かしたような飛影の台詞に、かっと頭に血が上った。途端にきつくなった視線に動じることなく、飛影は淡々と言葉を紡ぐ。
「恐れは迷いとなり、闘いにおいての妨げにしかならない。今の貴様の一撃……あんなものでは、貴様は鴉に勝つどころか生き残ることさえできん」
す、と飛影が腰の刀を抜く。ゆっくりと弧を描き振り下ろされたそれは、蔵馬の眼前で停止した。
「弱者はいらん。死ね」
「！」
横に走った閃光は、蔵馬の影を掠めた。
「く……」
飛影を越え、床に着地した蔵馬を間髪入れず次の一撃が襲う。
「やめろ、飛影!!」
叫ぶ蔵馬の髪を一房落とし、壁に追い込まれた蔵馬の胸を刀の柄が突いた。
「ぐっ!!」
呻く蔵馬の顎を掴み、飛影は思い切り自分の方に引き寄せる。そうしてそのまま、荒々しく唇を押し当てた。
「ん……ぅ…!!」
突然のことに驚き、必死で首を振って絡み付いてくる舌から逃れようとする。その抵抗ごと蔵馬を壁に押さえつけ、飛影はするりと左手を蔵馬の首にかけた。
「!!!」
途端に縮み上がる身体を、刀を放した右腕で抱き締め、押し倒す。
「……恐れるな」
離れた唇を今度は首筋に押し当てて、飛影が言った。それにさえびくりと強張る身体に、飛影は顔を上げて蔵馬を覗き込む。きつく閉じられた瞼を指先で撫で、目を開けるよう促す。
「迷うな。奴を倒すことだけを考えろ」
開かれた瞳が、戸惑いの色を浮かべながらも揺らいだ。その深い緑にも見える闇色の瞳を見つめる。
「貴様は死なん。例え死んだとしてもただでは済まさんようなやつだ。相打ちになっても相手を倒すやつだ」
まるでそのとおりだと言わんばかりの飛影の台詞に、蔵馬は呆然と飛影を見つめ返す。
「だが迷えばやられる。それは何者であろうと同じことだ」
飛影の真っ直ぐな眼差しが、蔵馬を射抜いた。
「だから、迷うな。恐れるな。負けたら許さん。――……解かったな」
頷くように、蔵馬は瞳を伏せた。飛影がもう一度、首筋に顔を寄せる。それでももう、蔵馬の身が恐怖に竦むことは無かった。
――ごめん、飛影。
観客の歓声が響き渡る中、幽助の肩を借りながら、蔵馬は飛影にそう眼で告げた。
――バカが。
ふい、と逸らされる不機嫌な顔に、蔵馬は苦笑する。リングを降りた蔵馬を、背を向けた飛影が少しだけ振り返る。
――だが、奴は倒した。
俺の言ったとおりだっただろう？
そう得意げに笑った飛影に、蔵馬はそっと微笑んだ。
あとがき：
シンドロームとトラウマは少し意味が違うんですが「首触られるの怖いよ症候群」というこ(ry
2004〜2006？
携帯...←戻
PC...ブラウザを閉じてお戻り下さい