07. 携帯電話
がらりという窓を開ける音に顔をそちらへ向ければ、予想通りの、けれど予定外だった影があるわけで。
「……驚いた」
思わずそう呟いて、ベッドの上に横たえていた身を起こす。まるで珍しいものを見るような視線を向けられたせいか、夕日に照らされた顔をいささか不機嫌そうにして窓枠を乗り越えやってきた。
「今日は来ない予定じゃなかったんですか」
そう、つい一時間前に確認したはず。
最近普及しだした�牾Δ魃曚┐觀搬單渡鱈瓠�人間界に移り住む妖怪が増え始め、彼等と連絡を取ることが不便となったため、開発された。これは便利と蔵馬も早速購入し、飛影に持たせたのだ。電話をかければ所在が解かるし、お互い予定を合わせて休みを取ることができる。それに何より、離れていても声が聞けるわけで。蔵馬にとってはそれが一番嬉しかった。そのために、ついつい、頻繁に電話をかけてしまったりする。しかし第一声は決まって「今日も生きてますね」だから、飛影としては複雑な心境である。
「貴様は俺に死んで欲しいのか」
ある日いい加減うんざりした様子で飛影が問うと、
「いつ死んでもおかしくないところにいるんだから、心配して当たり前でしょ」
冗談めかしてそう言っていたが、電話口から聞こえるその声に、不安の色が混じっていた。ほんのわずか、ではあるが。おそらく本人は気付いていないだろう。
「飛影、今日は来ないんですよね」
「ああ」
「そう、じゃあ、また」
今日の昼間聞いた蔵馬の声。どことなく違和感を覚えたそれに、飛影の足は自然とここへ向かっていた。そうしたら案の定、まだ日が沈まないにも関わらず、蔵馬はベッドで横になっていた。
やはり、自分の勘は正しかったか。ベッドに腰掛けたまま見上げる蔵馬の額に手を乗せると、いつもよりも少しだけ熱を持っていた。
「熱か」
「え……？」
きょとんと目を丸くする蔵馬を引き寄せ、軽く唇を合わせる。
「あ……」
相手と自分の体温の差を感じ取り、口元を手のひらで覆う。そんな蔵馬に、飛影はあきれたように言った。
「気付いていなかったのか」
「ええ、まったく……」
呆けたまま頷く蔵馬を飛影は軽々と抱き上げて、ベッドに寝かしなおす。
「寝てろ」
「ええ、けど、飛影――……」
布団をかける手を止めて、自分に向けられる視線に振り返る。熱のせいか、その瞳はいつもより少しだけ潤んでいた。
「どうして、解かったんですか？」
その声が、いつもと違う色を乗せていたから…とは、言わなかった。言う必要さえ無いと思った。それは答えのようであり、そうではないような気がしたからだ。
「――――さあな」
だから小さくそれだけ言って、もう一度熱い唇に口付けた。
2004?
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