幽白-文-遊園地

04.　遊園地

ある日突然、珍しいお客が訪ねてきた。

「え？遊園地？」
「そう！久し振りにさ、みんなで集まってどこかに行かないかってことになったんだよ」
うきうきとテーブルに遊園地のパンフレットを並べるぼたんに、蔵馬は相変わらず元気だなあと少しだけ感心しながらお茶を入れてやる。
「あ、ありがとさ～ん。――でね、螢子ちゃんに言ったら、ちょうどここのの遊園地が今、子どもの日のキャンペーン中で、フリーパス…だったっけ？がいくらか安いんだってさ」
「ああ、うちにもチラシが入ってたよ」
ぼたんの差し出したパンフレットに目を通しながら、蔵馬は自分もお茶に口をつける。
「確か、名物は高さ四十メートルから垂直落下するっていう……」
「それだよ、それ!!」
よほどテンションが上がっているらしい。テーブルに勢い良く身を乗り出して思わずコップを倒しかけ、液体が零れ落ちる寸前で慌てて受け止める。
あはは、ごめんよあたしったら、と笑う彼女は、やはりどこまでも元気だな、と少々呆れつつも感心してしまう蔵馬だった。
「それで、メンバーはどうなるんですか？」
改めて椅子に座りなおしたぼたんに蔵馬が聞く。
「あんたと幽助と螢子ちゃんと、それから桑ちゃん、静流さん、雪菜ちゃんも大丈夫って。あたしとコエンマ様も一緒に行かせて貰って、それと――」
そこまで言って、ぼたんはちらりと蔵馬に視線を走らせた。
縋るような視線。……言いたいことはよーく解かる。
「飛影はオレからよく言っておくよ」
「助かるよぉ、蔵馬っ!!」
両手を合わせ、頭を下げたぼたんに蔵馬はやれやれとため息をつく。
ま、自分は彼の保護者のようなものだと思われているのだ(実際違うとは言い切れないし)。致し方あるまい。
しかし、彼がそう素直に来るだろうか。みんなで楽しく遊園地だなんて……。
蔵馬はつい、頭の中でシュミレーションしてしまう。

飛影、遊園地行きませんか？
『遊園地？何だそれは』
色々な乗り物があるんですよ。例えば、とても速く動く〝ジェットコースター〟や、本物そっくりに作られた幽霊や妖怪のいる〝お化け屋敷〟、名物は高さ四十メートルから垂直落下する……
『とても速く動く？それは一体どれくらいだ？』
………飛影よりは遅い、かな。
『ニセモノの幽霊や妖怪だと？そんなもの見て何が楽しい
………だね、オレ達本物だし。
『たかが四十メートルなんていつも飛び降りているぞ』
…………………

「ごめん、ぼたん、やっぱり無理だ」
「えっ!?どうして!?」
非難の声をあげるぼたんに、蔵馬は申し訳無さそうにこう言った。
「だって、オレ達ジェットコースターより速く走れるし、妖怪がお化け屋敷行ったって怖くないし、四十メートルよりも高いところからいつも飛び降りてるから……」
「……………」
「……………」

行き先が遊園地から水族館に変更されることになったのは、言うまでもない。

2004?

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