街がわずかに暁色に染まり始める頃、俺はいつも目を覚ます。
目蓋を押し上げればまず目に入るのは決まってあいつの姿。
あまりにも美しすぎる寝顔は、俺には死んだもののそれに見えた。

**ネムリヒメ**


生まれて最初に見たのも、こんなふうに目を閉じた、女の白い顔だった。
はじめのうちは、あの女は眠っていたのだと思っていた。
それが年を重ねるうちに、あれは本当は死に顔だったのだと理解した。
自らの手で多くを殺し、死に触れたからこその、漠然とした確信。
女は真っ赤な布の上に静かに眠っていた。
思い返せば、あれは血に染まった新雪の上で、息もなく横たわっていたのだ。
剣を振るえば相手の傷口から吹き出す赤。
あれはその色をしていた。

あまりにも穏やかな顔をしていた。
止めどなく襲いくる激痛の中、身悶えながら死んだのであろうに。
白く冷たく、美しい顔は、まるで笑みさえ浮かべているようにも見えた。

もし、このまま、と思う。

目の前で眠る美しい狐が、このまま二度と目を開かなければと、いつも。

そっとやわらかな髪に指を通してみる。
僅かに息を吐いて身じろぐのは生きている証。
手のひらに伝わる頬の温かさを確かめながら、俺はその唇に口付けを落とす。

今日もお前が、目覚めるように。

俺を見つめて、微笑むように。

2006?


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