これを明日までにまとめて欲しい、といってファイルを手渡してきた同僚の女性の指に、いつも誇らしげに鎮座していた銀色がなくなっていた。了承の意を告げるとともにちらと顔を見た。薄紅色のアイシャドウが乗った瞼が少し膨れていた。ああ、終わったのか、と、特に同情も浮かばずに、それだけを思い、自らの机に向かった。


「ああ……ちょっと、今帰ってきたばかりなんですよ」
自室に一歩足を踏み入れた途端、蔵馬は灯りを点ける間もなく腕を引かれてベッドに落ちた。隠そうともしない強い気配で訪れていたことは解かっていたが、それでもここまで性急に求めてくるとは思っていなかった。飛影の手が、首元に巻きついて襟元を固く守っているネクタイを、乱暴に掴んだ。それのほどき方を知らない彼は、苛立ちのまま引きちぎろうとしているらしかった。気に入りのうちの一本であったので、蔵馬はそうされないうちにやんわりと飛影の手のひらを握り、その唇にぱくりと齧りついた。こうすると、彼は決まってその手を止め、溶けるほどまで舌を絡め合うことに集中するのだった。その隙に、自らネクタイをほどいて脇へ落とす。そのままシャツのボタンも外してしまえば、翌朝無惨な白い布切れを見なくて済むだろう。
「っ、ん……」
開かれた襟元への、待ちかねたような指の侵入に、声が漏れた。的確に急所をくすぐって辿るそれに、背がしなる。少しばかりのお返しに、蔵馬もその肩や背中に触れてやる。洗練された力の強さを肌の下に確かめながら胸の中心に行き着いたとき、こつりと、冷たいものが触れた。その正体に思い当ったとき、すべてが、止まった。



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