『お前の好いている南野秀一(人間)はもうすぐ死ぬぞ』

いつもより長い腕で俺の身体を後ろから包み
いつもより低い音が耳元に囁く

『あやかし狐に生命(いのち)を喰われて消えてくぞ』

くすくすと、まるで闇に溶け入るような笑い声にのせて
ほの白くかがやく銀の髪はうたう

『あとに残るはあやかし狐 皮を脱いだ古狐』

空にはふくれあがった満月
星も見えぬ夜のなか
たった一つぽっかりと浮いて
俺はそれをただ仰ぎ
お前の想いに耳をかたむける

『髪は銀色 瞳は金色』

お前の柔らかな黒髪と闇の深淵のような瞳が気に入っていた

『ああ 何もかも 大違い』

やさしい響く声も
日溜まりのような笑顔も
全部

掠れた語尾を隠すように、お前は俺の肩口に顔を埋める
その拍子にさらりと落ちてきた長い髪
それに指を通しながら覗きこむと、きつく閉ざした長い睫毛がふるえていた
透き通るほど白い肌
南野秀一のそれの比ではなく
また異なる色をした髪の間からのぞく獣の耳
時折はたりと微かな音をたてて左右する尾
完全なるあやかし
何一つ人間と共有するものなど無いように見えた

それでも

「いい」

内にあるものが同じならば

「お前がお前なら、いい」

その薄い瞼に口付ける
ややあって開かれた瞳が俺を見つめ
お前は何もいわず微笑って
それから
静かに唇を重ね合わせた


俺を映した金色が
この上なくきれいだと思った


**コンジキ**

2006.


携帯...←戻
PC...ブラウザを閉じてお戻り下さい

inserted by FC2 system