例えば、言葉を交わしている途中で誰かに呼ばれて俺からそっちへ顔を向ける瞬間だとか。
義弟と出かけるんだと楽しげに笑ったりする時だとか。
もうすぐテストだからしばらく来るのは止めてくれといわれた日だとか。
どうしようもなくあいつのことが憎くなって、あいつを奪ったものに腹を立てて。
それ以上に、そんなにも容易く自分のものを奪われる己の不甲斐無さを呪って。
今日も久しぶりに訪れたというのに、会社のみんなで花見に行くとか何とかで、あいつはせっせと出かける支度をしている。
胸の中心を何かにぎゅうと締め付けられるように痛くなって、それから喉の奥が熱くなって、どうしたんですか、なんて知らぬ間に眉間にできた皺を指でつつかれ。
知らん、下らんと顔を背けたら、そんなに拗ねないで、機嫌を直して飴あげるから、と完全に子ども扱いされて余計に腹が立って。
無視を決め込もうとしたらいきなり唇が重なってきて。
器用な舌が滑り込んでころりと甘いカタマリを俺の中に落として去ってゆく。
おい、きさまと声を荒げたときにはもう既に影も形もなく。
窓の外から嫌味なくらいにきれいな笑みで手を振って駆けてゆく姿を見送って。

桜が羨ましい。

そんなことを思う自分をバカめと罵って、あいつのにおいがするベッドで不貞寝した。

**Envy**

2006


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