本当に、どうしようもないほどつまらない、役に立たない物のはずなのに、何故か捨てられないもの、というのはある。
魔界への帰路の途中、いまだ手の中に握り締めたままのそれを思い、飛影は吐息をついた。

赤い、透明なフィルムの“つる”。
“ラムネ”とかいう菓子の包を細い指で器用に折って、蔵馬が作ったものだ。

蔵馬としては、特に何を思ってということもでもなく、ただ自分がそれを作る過程を、飛影があんまり珍しそうに見るものだから、できあがったそれを手渡しただけ……なのだろう。多分。
だからその後、席を立っている間にゴミ箱へ放り込まれようが、そのまま机の上に置き去りにされようが、蔵馬は構わなかった。
彼にとってそれはやっぱりゴミでしかなく、どうでもいい物だったから。

だが、飛影にとってはそうではなかった。
もしこれがただの“ラムネの包み”であったなら、飛影にとってもゴミでしかなかった。 しかし、ただのゴミも、蔵馬の手にかかれば特別なモノへと変わる。
手のひらに受け取った、赤い翼の鳥。
光に透かせば赤い影を落とす不思議なそれ。
捨てようなどと、カケラも思わなかった。
持っていても仕方が無い、使い道の無いものだと解かってはいるのだが。

ただのゴミも、蔵馬の手にかかれば特別なモノへと変わる。
不思議な奴だ、と思う。
いつもこんな時だ。

何の変哲もないはずのモノも、蔵馬をとおしてみればまるで命を宿したかのように飛影の目に鮮やかに映る。
並んで咲いた、どれも同じにしか見えない花も、「こいつが一番色艶が良い」と蔵馬が言えばそう見えたし、聞きなれたはずのメロディも、蔵馬が口ずさめば全く別の旋律に聴こえた。
一体どんな術を使えばそんな風に他人を操れると言うのだろう。
一度だけ訊ねてみたことがある。
すると蔵馬は「秘密です」とだけ答えた。
どこか嬉しそうな笑みを浮かべて。

魔界への入口を潜る前に、一度だけ立ち止まって右手を開く。
落としてしまわないように強く握り締めていたせいか、少しだけ形の歪んでしまったそれを指で整えながら、満月に透かした。
月がまるで、いつだったか綺麗だと蔵馬が言った、あの夕日のように見えて。
一体この小さな宝をどこへ仕舞おうかと、笑った。

フィルムバード

2003?〜2006


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